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相続

【相続対策事例17】相続税対策が途中で止まってしまった

〈状 況〉

Mさん(80歳)は総額3億円ほどの資産を保有していました。

不動産が中心でしたが、預貯金や株式などの金融資産も多く保有していました。

80歳を過ぎ、そろそろ相続について考えなければと思っていました。

資産総額は3億円、配偶者は5年前に亡くなりましたが、子どもが5人おり、節税や遺産分割で悩みました。

知り合いの税理士に相談したところ、生前贈与をすすめられました。

5人の子どもたちにはそれぞれ子どもがおり、子だけでなく孫にも生前贈与することにしました。

子や孫に毎年生前贈与を行っていけば、相続財産を着実に減らすことができ、節税になると考えました。

税理士に相談しながら、計画的に生前贈与を進めることにしました。

ところがMさんには数年前から物忘れの症状がありました。

年齢のせいだとあまり気にせずにいましたが、ここ最近は特に物忘れの症状がひどくなり、今日が何月何日なのか、自分はなぜここにいるのか、わからなくなることが多々ありました。

病院で検査を受けた結果、認知症と診断され、残念なことに認知症の症状が大分進行していました。

意思能力の低下により、贈与契約書の作成は困難と判断されてしまいました。

生前贈与を行うことができず、また円満な遺産分割のための遺言書を作成することもできませんでした。

Mさんが計画していた相続対策は途中で終了してしまいました。

その結果、多額の相続税が発生することになりました。

〈問題点〉

● 節税ができず相続税の負担が増える

● 子や孫たちへ自分が望む遺産の承継ができない

認知症により贈与契約書や遺言書を作成することができなくなったため、Mさんが望む相続対策が実行できなくなってしまいました。

生前贈与ができなくなり、相続財産を減らすことができず、遺産総額3億円に対する相続税を支払わなければならなくなってしまいました。

配偶者が生存していれば「配偶者の税額軽減の特例」を使って節税することができましたが、すでに亡くなっているため、特例を使うことはできません。

さらには、遺言書を作成することもできなくなり、遺産の承継もMさんが望むようにはできなくなってしまいました。

〈対 策〉

✅ 生前贈与

✅ 生命保険の活用

✅ 不動産整理

もっと早い段階からこのような対策を進めておくべきでした。

認知症になってしまうと、やりたいことができなくなってしまいます。

生前贈与は「相続対策の王道」と言われています。

自分の意思で特定の人に財産を渡すことができ、また相続財産を減らせるため節税になります。

長い年月をかけてより多くの人に生前贈与することで大きな効果を生みます。

生前贈与には、暦年贈与のほかにも相続時精算課税制度もあります。

生命保険に加入しておけば、その後契約者が認知症になっても、死亡保険金は確実に受取人に届きます。

もし、認知症になり自分が加入している生命保険がわからなくなっても、生命保険協会の生命保険契約照会制度で調べることができます。

不動産の継承については、相続では必ずと言っていいほど問題になります。

そのため誰が引き継ぐのかについては早めに決めておくべきです。

不動産は容易に分割することができないため、生命保険金を使って代償金を支払うことで決着させることもできます。

ただし、不動産の共同名義は相続後の維持管理でトラブルになることが多いので避けましょう。

2026.7.30.

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相続

【相続対策事例16】遺言書を作れなかった

〈状 況〉

77歳になるLさんは、そろそろ真剣に自分相続のことを考えなければならないと思っていました。

Lさんの財産は、3,000万円の自宅と2,000万円の預金および300万円の株式でした。

なお、Lさんの妻はすでに亡くなっており、相続人は長男と長女の2人でした。

長男はLさんのすぐ近くに家族と住んでおり、こまめにLさんのお世話をしていました。

一方、長女は結婚して東京で暮らしており、年に一度か二度ほどLさんに会いに来る程度でした。

そのためLさんは「長男には自宅を、長女には預金と株式を残したい」と考えていました。

Lさんは自分の財産の分け方について、遺言書の付言事項にその理由も書いて、子どもたちがもめないようにしておくつもりでした。

ところが、Lさんは認知症を発症しており、認知症の進行状況から、意思能力がないと判断されたため、遺言書を作成することができませんでした。

数年後にLさんが亡くなり、長男と長女で遺産を引き継ぐことになりました。

遺言書がなかったため、相続人である長男と長女で遺産分割協議を行いましたが、なかなか決着がつきませんでした。

法定相続分どおりであれば1/2ずつとなりますが、自宅、預金、株式を納得のいくように分けることは難しく、最終的には家庭裁判所による調停となってしまいました。

〈問題点〉

● 希望どおりに財産を残せない

● 相続争いにつながる

Lさんは認知症を患っており、認知症の進行状況から意思能力がないと判断されたため、遺言書を作成することができませんでした。

そのため自分が望むような財産の承継ができませんでした。

遺言書があればこれに沿った遺産分割が行われますが、遺言書はないため、相続人である長男と長女で遺産分割協議を行わなければなりません。

預金と株式は分割することができますが、自宅を安易に売却することはできないため、分割は困難です。

結果、双方が納得のいく遺産分割での決着をすることができず、相続争いにつながってしまいました。

〈対 策〉

✅ 遺言書の作成

✅ 遺言執行者の指定

認知症を発症し、意思能力がないと判断されてしまうと、やりたいことができなくなります。

必要性を感じたら先延ばしせずに、元気なうちに完了させておくことが大切です。

また、遺言書の内容をスムーズに実行するために、遺言執行者を選任して、遺言書に書いておくことも大切です。

遺言執行者は弁護士や司法書士などの専門家でなくても、自分が望む人を選任することができます。

2026.7.23.

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相続相談の現場から

「まだ元気だから」と相続対策を先延ばしにする心理

日本人の平均寿命 男性は81.09歳 女性は87.13歳

厚生労働省の報告によれば、2024(令和6)年の日本人の平均寿命は、男性が81.09歳、女性が87.13歳とのことです。

日本は世界でもトップレベルの長寿国であることはよく知られています。

サラリーマンの定年退職年齢は伸びてきており、経済的な理由もありますが、食生活や医療技術の進歩などにより、元気に働くシニアがとても多くなりました。

今の多くのシニアは、仕事に趣味に、とても活動的です。

平均寿命と健康寿命の違い

「健康寿命」という言葉があります。

健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく送れる期間をいいます。

ちなみに厚生労働省が2022(令和4)年に行った調査では、男性の健康寿命は72.57歳、女性では75.45歳となっています。

平均寿命と健康寿命の差は、日常生活に制限のある「不健康な期間」があることを意味します。

平均寿命と健康寿命の差を見ると、男性は81.09歳-72.57歳=8.52年、女性は87.03歳-75.45歳=11.68年となります。

男性では人生最後の8.52年、女性では11.68年は、生存はしていても日常生活に制限が出てきてしまい、自分ひとりでは思うような活動はできないということになります。

健康寿命を延ばすための自己管理を行うことが大切ですが、健康寿命が終わるまでに、自分のやりたいこと、やるべきことは、やっておくようにしたいものです。

もしも認知症になってしまったら

最近では、相続対策のひとつとして認知症対策が重要視されています。

認知症と診断された場合、判断能力の状況によっては、預金口座が凍結されてしまうことがあります。

預金口座が凍結されてしまうと、家族でも預金を引き出すことはできません。

また、家族がもめないように遺言書を書こうと思っていても、書けなくなってしまいます。

さらには、自宅を売却してそのお金を老人ホームの入所金に充てようとしても、自宅の売却ができなくなってしまいます。

このように、もしも認知症になってしまったら、いつかやろうと思っていたことができなくなってしまうのです。

相続対策は元気な今のうちにやっておくべき

相続の相談を受けていると、「自分は元気だから、相続対策はまだ先でいい」と思っている人がとても多いです。

もしも突然認知症になってしまったら、やろうと思っていたことができなくなってしまいます。

「円満相続にむけて、財産を分けやすいように整理する」

「財産の分け方を遺言書に書く」

「生命保険を活用して、相続税の納税資金を確保する、特定の人に財産を渡す、遺産分割協議がまとまるまでの間に使える現金を確保しておく。」

これらはみな実際にやろうとすると体力・気力が必要で、元気なうちにしかできません。

相続対策を行ったとしても、状況は刻々と変化していきますので、見直す必要があります。

「自分は元気だから、相続対策はまだ先でいい」と先延ばしにせずに、元気な今こそ相続対策をスタートさせましょう。

2026.7.17.

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相続

【相続対策事例15】実家を売却できなくなった

〈状 況〉

ひとり暮らしをしていた母親(80代)が認知症を患い、ひとりで生活することが困難になったため、子どもたちは母親に老人ホームへ入居してもらいました。

今後、母親が実家に戻るということは考えられず、子どもたちは「実家は空き家になる」と考えていました。

空き家になった実家を売却して老人ホームの費用に充てようしましたが、母親は認知症を患っているため、売買契約を締結することができませんでした。

認知症になると、本人の意思能力(判断能力)が低下しているとみなされ、原則として自宅を売却することはできなくなります。

たとえ配偶者や子どもであっても、本人の代理として勝手に売却手続きを進めることは法律上認められていません。

不動産売買は重要な法的行為です。

所有者本人に「自分が家を売り、代金を受け取る」という結果を正しく理解する意思能力がなければ、契約を結んでも法的に無効となります。

不動産会社や司法書士は、契約時に必ず本人の意思能力を確認するため、認知症が進行していると手続きを拒否します。

〈問題点〉

実家の老朽化も進んでいたため、子どもたちには実家を引き継いで生活するという考えはありませんでした。

また、母親が認知症ということで、実家を売却することもできません。

その結果、次のような問題が生じてしまいました。

●誰も住んでいないのに管理費だけがかかってしまう

●管理ができていないと近隣から苦情が来る

●固定資産税も払い続けなければならない

●あてにしていた実家の売却資金を介護費に充てられない

〈対 策〉

相続対策は家族が困らないように生前に行っておくものですが、認知症になる前に行っておくべきものといえます。

この事例の場合、母親が認知症になる前に、例えば次のような準備をしていたら問題は解決できたと考えられます。

✅家族信託

✅実家の売却を見据えた資産整理

2026.7.10.

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相続相談の現場から

「うちは財産が少ないから大丈夫」の落とし穴

一般家庭の相続財産は「自宅」と「少しの金融資産」

「相続対策は一部のお金持ちがやるもので、わが家には不要」と思っている人が結構いらっしゃいます。

確かに一般的な家庭における相続財産はというと、「自宅」と「少しの金融資産」というケースが多いです。

相続税には、配偶者の税額軽減の特例や小規模宅地等の特例などがあり、これらの特例を適用すれば、多くの場合、相続税はかからない、もしくはかかっても少額といえるでしょう。

そのため「相続対策は必要ない」と考える人が多いのだと思います。

相続対策と相続税対策は別物

相続対策と聞いて、相続税の節税対策を思い浮かべる人が多くいらっしゃいます。

ですが、相続対策と相続税対策は別物なのです。

より正確にいえば、相続税対策は相続対策の一部です。

そのため「相続税の節税対策を行えば、相続対策は完了」ということにはならないのです。

では相続対策には相続税対策の他に何があるのでしょうか?

答えとしては、相続財産の円満な分割に備えるための「遺産分割対策」と、相続が発生した後すぐに使えるお金に備えるための「流動性資金対策」があります。

相続対策には3つの対策ある、ということになりますが、相続専門FPの立場からすると、その中で最も重要と考えるのは「遺産分割対策」です。

遺産分割事件の約80%は遺産価額5,000万円以下という現実

最高裁判所事務総局がまとめた「令和7年 司法統計年報」によれば、遺産価額別にみた遺産分割事件の件数は、総件数の約80%が遺産価額5,000万円以下でした。

約5件に4件は遺産価額5,000万円以下ということになります。

さらには総件数の約35%が遺産価額1,000万円以下であり、約3件に1件は遺産価額1,000万円以下でということになります。

財産が多いからもめるのではなく、財産が少ないからもめるのです。

財産の多い資産家は、もともともめることがわかっているので、節税対策なり遺産分割対策を事前に行っているということなのでしょう。

「うちは財産が少ないから大丈夫」という認識は危険だということですね。

相続の問題は税金よりも遺産分割の方が重要

繰り返しになりますが、一般的な家庭においては、特例を適用すれば「相続税はかからない、かかっても少額」です。

相続対策というと節税のことを思い浮かべる人が多いのですが、相続の問題は税金よりも遺産分割の方が重要ということがわかります。

民法には、一定の相続人が最低限相続できる相続分として「遺留分」が定められています。

相続財産が「自宅」と「少しの金融資産」という場合、円満な遺産分割のためとはいえ、自宅を売却するというのは簡単にできることではありません。

相続発生後や認知症になってしまってからでは対策を打つことができなくなってしまいます。

元気なうちに、遺言書を書いたり生命保険を活用するなどして、相続対策を行っておくことが円満相続の秘訣です。

2026.7.2.