会社員であった夫が亡くなると国の公的年金制度から遺族年金を受け取ることができます。
遺族年金には「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」の2つがあります。
遺族年金は残された遺族の生活費として支給されます。
一方で、遺族の生活費を保障するものに生命保険があります。
では、遺族年金がもらえるのなら生命保険はいらないのでしょうか?
1.遺族年金とは
遺族年金とは、一家の働き手などが亡くなったときに、国の公的年金制度から遺族に給付される年金です。
遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2つがあります。
20歳以上60歳未満のすべての国民は国民年金に加入します。
企業等に勤務する人や公務員は、国民年金の上乗せとして厚生年金に加入します。
「遺族基礎年金」は国民年金からの給付の1つであり、「遺族厚生年金」は厚生年金からの給付の1つです。
国民年金 | 厚生年金 | |
老齢給付 | 老齢基礎年金 付加年金 | 老齢厚生年金 |
障害給付 | 障害基礎年金 | 障害厚生年金 障害手当金 |
遺族給付 | 遺族基礎年金 寡婦年金 死亡一時金 | 遺族厚生年金 |
それでは「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」についてくわしく見ていきましょう。
なお、遺族年金には細かい規定が定められており、そこまで説明すると複雑になるので、ここでは原則部分を説明します。
(1)遺族基礎年金とは
遺族基礎年金は、受給要件を満たしている場合、死亡した人によって生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」が受け取ることができます。
遺族基礎年金は子どもがいないと受け取ることができないのです。
しかもここでいう子とは、18歳になった年度の3月31日までになります。
このように遺族基礎年金の受け取りは限定的なのです。
なお、子どもが複数いる場合には人数に応じた加算があります。
(2)遺族厚生年金とは
一方の遺族厚生年金は、受給要件を満たしている厚生年金の加入者や受給権者、受給者が死亡した場合に、その人によって生計を維持されていた妻、子や孫などが受け取ることができます。
遺族厚生年金は遺族基礎年金とは異なり、子どもがいない配偶者も受け取ることができます。
遺族厚生年金の受給年金額は、死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3となります。
計算式で示すとこのようになります。
年金額=(①2003(平成15)年3月までの被保険者期間分+②2003(平成15)年4月以降の被保険者期間分)×4分の3
①の計算式=平均標準報酬月額×1,000分の7.125×被保険者期間の月数(2003(平成15)年3月まで)
②の計算式=平均標準報酬額×1,000分の5.481×被保険者期間の月数(2003(平成15)年4月以降)
おおまかに言うと、平均標準報酬月額とは、厚生年金の被保険者期間の平均月収で、ボーナスも加味したものが平均標準報酬額です。
平均標準報酬月額と平均標準報酬額については、別途正式な算出方法が定められています。
なお、所定の受給要件を満たせば、「中高齢寡婦加算」や「経過的寡婦加算」という規定によって、遺族厚生年金の受給年金額が増額されるケースもあります。
2.妻が受け取れる遺族厚生年金の金額
それでは妻が受け取れる遺族厚生年金はどれくらいなのでしょうか?
例として、夫が会社員で、同い年の妻が専業主婦として扶養されており、子どもは独立済みというケースで見てみましょう。
夫は会社員なので国民年金と厚生年金に加入しています。
夫の死亡により、国民年金からは遺族基礎年金、厚生年金からは遺族厚生年金の支給が考えられます。
しかし子どもはすでに独立済みなので、遺族基礎年金の支給はありません。
妻には遺族厚生年金のみの支給となります。
受給できる年金額は、夫の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3です。
計算式で示すとこのようになります。
年金額=(①2003(平成15)年3月までの被保険者期間分+②2003(平成15)年4月以降の被保険者期間分)×4分の3
①の計算式=平均標準報酬月額×1,000分の7.125×被保険者期間の月数(2003(平成15)年3月まで)
②の計算式=平均標準報酬額×1,000分の5.481×被保険者期間の月数(2003(平成15)年4月以降)
ここではわかりやすくするために「②の計算式」のみを用いて、
平均標準報酬額×1,000分の5.481×被保険者期間の月数×4分の3
として計算してみました。
ここに示した数値はイメージをつかんでいただくためのあくまでも目安です。
実際の受給年金額を計算するには、年金事務所に確認してください。
平均標準報酬額 | 厚生年金の被保険者期間 | ||||
20年 | 25年 | 30年 | 35年 | 40年 | |
300,000円 | 295,974円 | 369,967円 | 443,961円 | 517,954円 | 591,948円 |
400,000円 | 394,632円 | 493,290円 | 591,948円 | 690,606円 | 789,264円 |
3.遺族厚生年金がもらえるなら、シニアには生命保険は不要?
先ほどの例の場合で、平均標準報酬額が400,000円で、厚生年金に40年加入していた夫が60歳で亡くなったケースで見てみましょう。
あくまでも目安ですが、妻が受け取れる遺族厚生年金は年額で789,264円です。
妻が90歳まで生きるとすると60歳から90歳までの30年間、毎年約80万円の遺族厚生年金が受け取れます。
受取総額は80万円×30年間で2,400万円です。
妻は65歳になれば自分の年金として、国民年金から老齢基礎年金がもらえます。
2024(令和6)年度の老齢基礎年金の年額は満額で約80万円です。
妻は65歳から90歳までの25年間、毎年80万円の老齢基礎年金がもらえるとすると、受取総額は80万円×25年間で2,000万円となります。
夫の遺族厚生年金2,400万円と妻自身の老齢基礎年金2,000万円を合計すれば4,400万円です。
夫の残した金融資産、例えば退職金などが1,000万円あるとすると合計で5,400万円となります。
この5,400万円を60歳から90歳までの30年間(360ヵ月)の生活費にあてるとすると、
5,400万円÷360ヵ月で、毎月15万円となります。
つまりこのケースでは、毎月の生活費が15万円までであれば、生命保険に加入する必要はないということになります。
しかし、実際には夫の残した全財産や妻自身の貯蓄、妻の老後のライフプランによって、生活するために必要な金額は変動します。
シニア世代になって、生命保険にはいくら加入しておけばいいのかを考える際には、遺族厚生年金のことも必ず考慮する必要があります。
2024.6.8