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相続対策としての生前贈与|制度の仕組みと失敗しないためのポイント

相続対策を考える人の間では今、「生前贈与」への関心が高まっています。

背景には、相続税の課税対象者が増えていること、そして「自分の想いをきちんと形にして家族に引き継ぎたい」という意識の変化があります。

また、2024年から相続税・贈与税の制度が見直され、「暦年課税」や「相続時精算課税」の活用の仕方が変化しました。

これにより、生前贈与をどう設計するかが、今後の相続対策の成否を左右するポイントになっています。

生前贈与についてやさしくまとめましたので、相続対策に有効活用してください。

●生前贈与の基本:制度の特徴や注意点

生前贈与とは、生きている間に、家族などに自分の財産を渡すことをいいます。

相続が発生する前に贈与を行うことで、相続財産を減らすことができ、結果的に相続税の負担を軽減できる効果があります。

生前贈与にはいくつかの制度があります。

それぞれの特徴や注意点についてまとめましたので把握しておきましょう。

   制度名   内 容 主なメリット   注意点
暦年課税制度年間110万円までの贈与が非課税手軽で自由度が高い名義預金に注意
相続時精算課税制度最大2,500万円まで非課税で贈与可(相続時に精算)大きな贈与が可能将来の相続税に影響
教育資金贈与30歳未満の子や孫へ教育資金一括贈与節税と教育支援を両立使途制限・報告が必要
住宅取得資金贈与18歳以上の子や孫へ住宅資金援助家族支援として有効建物・登記要件に注意
結婚・子育て資金贈与18歳以上50歳未満の子や孫へ結婚・子育て資金援助家族支援として有効使途制限・報告が必要

制度を選ぶ際は、「何のために贈与するのか(目的)」を明確にすることが大切です。

節税を意識するあまり、目的があいまいなまま進めると、後々トラブルや税務上の否認を受けることもあるので、注意しましょう。

●よくある失敗・誤解に注意

生前贈与は、一見シンプルな制度に見えても、実務では多くの落とし穴があります。

ここでは、FPとして相談を受けている中で特に多いトラブル例を紹介します。

・名義預金になっている

受贈者である子どもや孫の名義で口座を作ったが、実際は贈与者である親や祖父母が入出金を管理している。

この場合「実質的に贈与が成立していない」と判断され、税務上否認されることがあります。

・贈与契約書を作っていない

口頭で約束しただけでは「贈与した」と証明できません。

税務署に否認されないためにも、贈与契約書を作成して、証跡を残しておく必要があります。

・毎年同じ金額を定期的に贈与

毎年同じ金額を、同じ時期に渡していると、「定期贈与」とみなされる可能性があります。

定期贈与とは、あらかじめ総額が決まっているものを、税負担を逃れるために、わざと小口に分割して贈与していることです。

・税務申告をしていない

贈与税の非課税枠内であっても、あえて申告し、贈与したことの証拠を残すと有効です。

●効果的な生前贈与の進め方

相続対策として生前贈与を効果的に活用するためのポイントをまとめました。

ポイント1 目的を明確にする

教育資金、住宅資金、結婚・子育て資金など、「何のために贈与するのか」をはっきりさせましょう。

ポイント2 贈与契約書を作成する

内容としては、日付・金額・贈与の理由を記した簡単なもので構いません。

印鑑を押し、双方で保管しておくことが大切です。

ポイント3 銀行振込で贈与する

現金を手渡しするよりも、振込履歴をきちんと残せる方法がおすすめです。

ポイント4 家族間で情報を共有する

生前贈与を実行する前に、「なぜこの人に贈与するのか」を家族で話し合っておけば、将来の誤解や不公平感を防ぐことができます。

ポイント5 専門家と一緒に設計する

贈与は相続全体の中での位置づけがとても大切です。

税理士やFPと一緒に、相続時のシミュレーションを行いながら実行すると安心です。

●2024年以降の税制改正と注意点

2024年以降、生前贈与を取り巻く制度は次のように変わりました。

・暦年課税の持ち戻し期間が3年→7年に延長

相続開始前7年以内の贈与は、相続財産に加算されるようになりました。

なお経過措置があるため、持ち戻し期間は段階的に引き上げられ、実際に7年以内の贈与が加算されるのは2031年以降に亡くなった人からです。

・相続時精算課税でも年間110万円の非課税枠を新設

毎年110万円までは非課税で、贈与時も相続時も申告の必要がないため、少額贈与を組み合わせた柔軟な設計が可能になりました。

・両制度の使い分けがより重要に

短期的な贈与なら暦年課税、まとまった資産移転なら相続時精算課税というように計画的な選択が求められます。

特に相続時精算課税を選択すると暦年課税には戻せないので注意が必要です。

●まとめ

以上、相続対策として生前贈与を活用する際の、制度の仕組みと失敗しないためのポイントについて解説しました。

生前贈与は、単なる節税テクニックではなく、「家族への想い」をかたちにする手段です。

しっかりと制度の仕組みを理解し、証跡を残し、家族間で話し合うことで、「揉めない相続」「安心できる老後」を実現することができます。

相続はいつ起きるのかわかりません。

将来の不安を減らす第一歩として、生前贈与の計画を始めてみてはいかがでしょうか。

2025.11.10.