相続では「争族」や「納税資金不足」といった問題が発生しがちです。
特に、不動産や株式など流動性の低い資産が多い場合には、遺産分割トラブルが発生しやすく、また納税資金を準備するのが難しくなります。
この問題を解決するための有効な手段のひとつが生命保険の活用です。
死亡保険金は、速やかに現金で受け取れるため、遺産分割トラブルの回避や納税資金の準備に役立ちます。
また、相続税における非課税の特典を活用すれば、税負担を軽減することができます。
相続対策における生命保険の基礎知識を理解して、活用法をマスターしてください。
1.相続の基礎知識
相続対策に生命保険が役に立つことを理解していただくために、まずは相続の基礎知識を整理してみましょう。
(1)相続とは
相続とは、人が亡くなったときに、亡くなった人の財産を、相続人である配偶者や子どもなどが引き継ぐことです。
(2)相続人になる人
亡くなった人の財産を受け継ぐ人を「相続人」、亡くなった人を「被相続人」といいます。
誰が相続人になるのかは民法で決まっています。
〈相続人となる人〉
対象者 | |
配偶者 | 常に相続人になる |
第1順位 | 子 |
第2順位 | 父母 |
第3順位 | 兄弟姉妹 |
(3)財産を分ける割合
相続人が決まったら、次はどのように財産を分けるかを決めます。
遺言書がある場合は、原則として遺言書に書いてある分け方が優先されます。
遺言書がない場合は、相続人全員で財産の分け方を話し合います(遺産分割協議)。
遺言書がない場合や、相続人同士で話し合いがまとまらない場合の目安として、民法ではそれぞれが相続する財産の割合が決められています(法定相続分)。
〈法定相続分〉
相続人の組み合わせ | 法定相続分 |
配偶者のみ | 全部 |
子のみ | 全部を子で分ける |
父母のみ | 全部を父母で分ける |
兄弟姉妹のみ | 全部を兄弟姉妹で分ける |
配偶者と子 | 配偶者に1/2、子に1/2 |
配偶者と父母 | 配偶者に2/3、父母に1/3 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者に3/4、兄弟姉妹に1/4 |
同じ順位の人が2人以上いる場合は、その人数で分けます。
なお、法定相続分はあくまでも目安であって、相続人全員が合意すれば、法定相続分どおりに分けなくても問題ありません。
●遺留分に注意
遺言書がある場合には、そこに書かれた分け方が優先されますが、1人に全財産を相続させるなどの内容では他の遺族が困ることがあります。
そこで一定の相続人が最低限相続できる相続分が定められています(遺留分)。
遺留分の権利は配偶者と子、そして父母に保証されています。
〈遺留分の割合〉
相続人 | 遺留分 |
配偶者、子 | 法定相続分の半分 |
父母(被相続人に配偶者がいる場合) | 法定相続分の半分 |
父母(相続人が父母のみの場合) | 法定相続分の1/3 |
兄弟姉妹 | なし |
(4)相続税
相続税は、相続財産の総額のうち基礎控除額を超える分について課税されます。
基礎控除額=3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
相続財産には、現金や預貯金だけでなく、不動産や有価証券、死亡保険金なども含まれます。
また、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も含まれます。
2.相続対策における生命保険の活用例
では相続対策で生命保険をどのように活用するのか具体的に解説します。
(1)死亡保険金非課税額のフル活用
死亡保険金は、受取人固有の財産として取り扱われ、民法上は本来の相続財産ではないため原則として遺産分割協議の対象外となります。
しかし、死亡保険金を受け取ると、相続税法上はみなし相続財産として相続税が課税されます。
ただし、死亡保険金には非課税の特典があり、受け取った死亡保険金のうち「500万円×法定相続人の数」までの金額は非課税となります。
この非課税の特典を活用すれば、税負担を抑えながら財産をのこすことができます。
(2)納税資金の確保
相続税は、亡くなってから10ヵ月以内に、原則として現金で納付しなければなりません。
もし相続財産が不動産や株式など分割しにくい資産が中心であると、納税資金を捻出するために売却を余儀なくされることも考えられます。
生命保険を活用すれば、死亡保険金は請求書類が保険会社に到着してから1週間程度で速やかに現金で受け取ることができるため、このような事態を回避することができます。
また、相続税がかからない場合であっても、葬儀費用の支払いや遺族の当面の生活資金としてすぐに現金必要になるため、生命保険が役に立ちます。
(3)遺産分割トラブルの回避が可能
死亡保険金は、受取人固有の財産として取り扱われるため、原則として遺産分割協議の対象外となります。
契約時に受取人を指定するため(途中で変更も可能)、確実に特定の相続人に資金を渡すことができます。
不動産や株式など分割しにくい資産の代わりに、遺産分割がしやすくなります。
3.注意点:契約形態と税務リスク
生命保険では、「契約者」「被保険者」「死亡保険金受取人」の関係によって税の種類(相続税、所得税・住民税、贈与税)が異なりますので注意が必要です。
なお贈与税は、相続税および所得税・住民税に比べて税負担が大きくなっています。
〈死亡保険金を受け取った場合の課税関係〉
契約者 | 被保険者 | 死亡保険金 受取人 | 税の種類 | 備考 |
夫 | 夫 | 相続人 | 相続税 | ・相続により取得したものとみなされる ・死亡保険金の非課税の特典あり |
夫 | 夫 | 相続人以外 | 相続税 | ・遺贈により取得したものとみなされる ・死亡保険金の非課税の特典なし |
子 | 父 | 子 | 所得税 (一時所得) ・ 住民税 | |
夫 | 妻 | 子 | 贈与税 |
4.まとめ
以上、相続対策における生命保険の基礎知識と活用法について解説しました。
生命保険は、相続対策において「税負担を軽減する」「現金を速やかに確保する」「遺産分割トラブルを回避する」という3つの役割を果たすことができます。
ただし、契約形態を誤ると、想定外の課税が発生する可能性もあります。
相続対策として生命保険を活用する場合は、FPや税理士などの専門家と相談しながら、家族構成や資産状況に合ったプランを設計しましょう。
2025.8.17